ブラックママシンドローム vol.3 「毒ジュース」
ミユキちゃんの子供は男の子が2人。どちらも中学生である。
兄のほうはとにかく口が達者で挑発するタイプ。自分から喧嘩を売るくせに感情のコントロールが効かずに大人に叱られて泣く。周囲が呆れるほどダサいのだが翌日にはケロっと忘れて同じことを繰り返す子だった。
喧嘩の売り先は主に2つ下の弟だったが、弟以外でも、相手が弱いとみるとすぐバカにする。
小学生の時には雑草をすりつぶして毒ジュースをこしらえ、ムカつく友達に飲ませたらしい。もちろん大問題になったが、それも時が経てばやんちゃ武勇伝として笑いながら話すネタと化してしまっていた。
「試合前だから軽くして。」
空手のスパーリング練習でもそう頼んでおいてミユキ長男は当然のように全力で来る。ボッコボコにしておいて、だまされるのが悪い、とでも言うようにすっきりと振舞える子だ。
同じことをされれば顔を真っ赤にして怒り、お母さんに言いつけに行く。
ミユキちゃんは
「じゃあ最初にそういうことはしないでって言っておきなさい!」か
「もうやらなきゃいいでしょ!!」と怒鳴るので
結局次第にみんなミユキ長男とスパーリングをしなくなる。
嫌な思いをした上にこっちが加害者のような態度を取られるのがミユキ一家の常で、とにかく疲れるのだった。
そんなミユキ長男だが、世渡りには異常に長けていた。成績はけっこう優秀であったうえに父親は教育委員会の職員らしく、受験テクニックは熟知していた。常にクラス長を務めさせ、3年生では生徒会長に立候補させる。空手では全国大会に出ることを目標にどんなに叱られても在籍し続けた。
それもすべて、高校の推薦のため。ミユキちゃんは憚ることなくそれを公言し、
「生徒会長なんて誰もやりたがらないから立候補すればなれてラッキー」
と、まるでテクニックのように伝授していた。
おそらく、ミユキ長男には発達障害があるのだと思う。ミユキちゃんも軽くそのケはあるのかもしれない。
ルールは読めても、空気は読めない。考えるのは自分の家族のことだけ。それでいて足りないものがあれば堂々と人に頼める。そういう生来の図々しさというか、自分勝手さがあった。
ミユキちゃんをどう言葉で表したらいいかというとはしたないとか、みっともないとか、図々しいとか、品がないとか。そういった、「ルールは守っているんだけれどね…あの人。」という、脱力感がある。
実際、お母さんが協力して決めなければいけないことがあったとき、ミユキちゃんは一切協力せず
「私は謙虚だから、みんなに合わせる。」
と言ってのけたことがあった。そんなミユキちゃんこそ歴が長くて仕切ってほしいのに、である。
コロナが流行したときも、道場での集まりは感染が心配だから怖い、と先生に文句を言っておいて自分一家は沖縄に旅行に行った。そういうトンチンカンなことが平気でできる人だった。
実際に息子を発達系の病院に連れて行ったこともあると言っていたけれど生来の口の達者さで医者をもまるめこんでしまったらしい。(もちろんミユキちゃんは「医者に発達障害ではないとお墨付きをもらった」と安心しきっていた)
感情のコントロールはまるできかないけれど自分の得することとなれば全神経を使って優秀さを纏える、それがミユキ長男だった。
念願の高校推薦を勝ち取り、高校に入ってしばらくして、ミユキ長男は空手を辞めた。
まだ弟がいるが、弟は兄よりも精神的に落ち着いていて、自分から喧嘩を売りに行くタイプではないから比較的問題は少ない。
ミユキちゃんは息子が第一志望に入れて大満足のようだ。
でも、おそらく彼は今後も苦労していくだろう。
それは私の知るところではない。
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